治療成功の鍵「TENS」とは

    噛み合わせ治療の成功の鍵を握るTENSとは

    ニューロマスキュラー理論を実践するうえで欠かすことのできない道具がTENSです。
    TENSの応用がなければニューロマスキュラー理論は生まれなかったと思われます。
    またこれがなかったら、噛み合わせで悩む多くの患者さんを救うことは到底できなかったと思います。

    経堂(世田谷区)の歯医者、K.i歯科で、かみ合わせ治療成功の鍵「TENS」

    TENSは理学療法の一つとして古くから使われてきている電気療法の一種です。主に疼痛のコントロールを目的として広く使われてきています。
    古くは紀元45年にシビレエイからの電気放電を利用したという記録もあるそうです。
    TENSには高周波TENS(50~100Hz)と低周波TENS(0.5~10Hz)があります。

    歯科では超低低周波TENS(Ultra-Low Frequency TENS)が使われ、咀嚼筋のリラキゼーションと下顎安静位を決定するために使われています。

     

    TENSの歯科への応用

    経堂(世田谷区)の歯医者、K.i歯科で、かみ合わせ治療成功の鍵「TENS」

    TENSの歯科用への応用のための研究は、1964年にシアトルの歯科医、バーナード・ジャンケルソンによってはじめて行われました。
    5年後の1969年に、歯科治療のために使用することのできるTENS装置が「マイオモニター」という商品名で発売されました。

    マイオモニターは当初、総義歯の製作のために用いられました。
    総義歯患者の粘膜面の印象と下顎位を決定するために咬合採得の方法として使われました。
    具合のいい義歯をつくるために威力を発揮し、今でも使われています。

    バーナード・ジャンケルソンは、ものを噛むときに使われる咀嚼筋(そしゃくきん)を刺激しようと試みました。
    咀嚼筋は脳神経の第Ⅴ(三叉神経)、第Ⅶ脳神経(顔面神経)の支配下にあります。
    しかし幸運なことに、ちょうど下顎骨の下顎(かがく)切(せつ)痕(こん)のあたりで両方の神経を刺激することができることに気づきました。

    外耳孔(耳の穴)のすぐ前のあたりに電極をはると、咀嚼筋が収縮して下顎が挙上(きょじょう)します。
    これは患者が閉じようとする意思とは関係なく下顎が挙上して口が閉じるので"不随意的(ふずいいてき)閉口(へいこう)"とよんでいます。

    この事実がのちにニューロマスキュラー理論を生み出す基盤となりました。
    そして多くの噛み合わせで悩む患者さんを救うことになるのです。

     

    超低周波TENSによる第Ⅴ・第Ⅶ 脳神経の刺激

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    上の写真の赤い部分が三叉神経が頭蓋底から出てくる部位を示しています。

    マイオモニターと電極の位置

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    最近ではマイオモニターの電極は、第Ⅴ、第Ⅶ神経の他にも第XⅠ神経(副神経)の部位にも貼付するようになっています。
    副神経は胸鎖乳突筋と僧坊筋を支配しているのでこの二つの筋のリラキゼーションもできるようになりました。

    胸鎖乳突筋と僧坊筋のリラキゼーション副神経の刺激

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    この場合6枚の電極を貼る必要がありますが、首筋や肩の凝りがある場合には非常に有効です。
    これで頭頚部全体の筋のリラキゼーションが出来るようになりました。

     

    マイオモニターによる筋のリラキゼーション効果

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    • 筋肉の緊張緩和
    • 筋肉の血流増進
    • リンパ液の還流促進
    • エンドルフィン効果

    筋肉のリラキゼーション効果は次のようなしくみから得られます。

    低周波 TENSの代謝促進作用 筋のリラキゼーションがおこなわれるしくみ

    • 緊張した筋肉内の乳酸などの老廃物を排出する
    • 血流を増加させて、酸素、ATP,グルコース、Caイオンなどの供給を促進する
    • 筋のメタボリズムを嫌気性から好気性に転換する
    • 患者にエンドルフィン効果をもたらす

    過緊張状態が長く続くと筋肉は疲労して硬くなり、スパスムス状態に陥ります。
    そうなると収縮したままの状態になり、自力では回復できなくなります。この状態を攣(れん)縮(しゅく)(スパスムス)といいます。
    血流が滞り、筋肉内には疲労物質や乳酸が溜まり、痛みや不快感のもとになります。
    また酸素やATP,グルコースなどの栄養も供給されなくなるので、筋肉内は嫌気性環境になり筋肉障害が発症します。

     

    筋肉をリラックスさせる原理

    経堂(世田谷区)の歯医者、K.i歯科で、かみ合わせ治療成功の鍵「TENS」

    これはマイオモニターによる筋肉のリラキゼーションの原理です。
    攣(れん)縮(しゅく)(スパスムス)状態となった筋肉は血流が滞り、自力では回復できなくなります。
    通常はマッサージなどの外力、または無理に動かしたりして揉みほぐしています。

    マイオモニターのTENSはこれと同じことをします。
    マイオモニターは硬くなって動かなくなった筋肉を、支配している神経を通じて電気刺激をすることで無理に収縮させます。

    そうすることで筋肉の中に溜まった老廃物(ろうはいぶつ)や痛みの原因になる乳酸などが絞り出されます。
    マイオモニターは1.5秒ごとに筋肉を収縮させたり弛緩させたりします。収縮のあと1.5秒間は弛緩します。
    そのあいだに外部から新鮮な血液が流れ込み、酸素や栄養などが供給されて筋肉は蘇ります。
    このようなことを、1分間に40回も繰り返しますので、深部の筋肉で手の届かないところの筋肉も蘇(よみがえ)ります。

     

    マイオモニターを着けたときの感覚

    最初のうちは、軽い刺激を電極のところで感じます。軽くピンとはじかれたような感じです。
    そのうち、顔の表情筋がかすかにピクピクと収縮しはじめます。
    そして最終的には、下あごが閉じるように挙上して口を閉じるような動きをするようになります。
    多くの人はこの刺激に慣れるとマイオモニターのリズミカルな刺激を好むようになります。
    1回に40~60分かけますがその間、半数以上の人は眠くなってまどろみはじめます。
    そしてほとんどの人は首や顔の筋肉が軽くなったことを自覚します。
    さらに筋肉の運動範囲が増して動きやすくなったのを自覚することもあります。開かなかった口も開くようになります。
    さらに血行が良くなったために顔色が赤みを差してくる人もいます。
    TENSは脳内ホルモンのひとつ、エンドルフィンというモルヒネ様の物質の分泌をうながすということも分かっています。そのせいで気分が爽快になって元気になる患者さんもおられます。

     

    マイオモニター刺激に対する反応の3段階

    第一段階 最初の刺激を感知する段階
    第二段階 顔面の筋肉の収縮がはじまる段階
    第三段階 臨床的閾値に達した段階

    • 顔面の筋肉の収縮は第Ⅶ脳神経の領域の収縮が開始されたことを意味する
    • より深いところにある第Ⅴ脳神経(三叉神経)に刺激が届くと、下顎の挙上が始まる
    • 臨床的閾値とは下顎がわずかに挙上することが感知できるマイオモニターの刺激の強さのことである

    臨床的閾値とは、最初に下顎がわずかに挙上を始めたときの電気刺激の強さのことです。

    噛み合わせの治療に欠かせない、さらに大きな役割

    歯科用のTENS、マイオモニターには筋肉をリラキゼーションして関節と筋肉を楽にする働きがありますが、その他にも噛み合わせ症候群の診断と治療のために、欠かせない大きな役割があります。

    噛み合わせ症候群の治療の目的は、下顎を安静位に導くことです。
    そのために噛み合わせ症候群の診断と治療の基準は、生理的下顎安静位です。
    生理的下顎安静位の位置がわからなければ診断も治療もできません。

    マイオモニターで咀嚼筋の緊張が取れて楽になった位置が実は下顎安静位なのです。
    その時の下顎の位置を記録することができれば、そこから診断と治療の手掛かりが見つかります。
    その位置に下顎を誘導してそこに安置することができれば治療は必ず成功します。

     

    マイオモニター(TENS)の役割は?

    • 筋神経機構のリラキゼーション
      (筋の緊張の緩和、スパスムスからの開放)
    • 歯牙の噛み合わせから受ける好ましくない筋肉記憶からの開放
      (条件付けられた筋固有反射と筋肉記憶(ENGRAM)からの解放)
    • 不随意的な等張性筋収縮で一過性の挙上を起こさせる
      (最小のエネルギーで起こる下顎の挙上)

    噛み合わせ治療の基準は生理的下顎安静位ですが、そのためには下顎周辺の筋肉が生理的に安静な状態でなければなりません。 その生理的に安静な状態をつくりだすために、マイオモニターの果たす役割は欠かすことができません。

    噛み合わせ症候群の原因は、下顎安静位にある顎の位置を上下の歯を噛み合わせることでずらされて、筋肉や顎関節が安静を保てない位置にずらされることです。
    その意味で、現在噛んでいる顎の位置(習慣性咬合位)は病的な位置ですが、この位置は筋肉記憶(ENGRAM)によって記憶されていて、いつでもその位置でものがかめるように下顎はスタンバイすることができます。

    下顎を安静位に誘導するとき、この筋肉記憶が強い場合には下顎を安静位に導くことが困難な場合があります。
    このような場合、マイオモニターを一定時間以上使用すると、この筋肉記憶の影響を少なくすることができます。

    マイオモニターのパルス刺激によって起こる、一過性の下顎の挙上は非常に短い時間で、1000分の3~10秒くらいといわれています。
    このことが臨床的には非常に大きな意味をもちます。
    つまり下顎の偏移を起こす上下の歯の過剰な接触部位を正確に特定するのに役立つのです。

    このような接触を早期接触といいますが、挙上している時間と力があまりにも弱く短いために最初の接触だけを記録しないで顎が開きます。
    実際にこの時、患者さんに噛んでもらうと最初に接触したところで止まらずにほかの全体の歯が噛み合うまで噛みこんでしまいます。そのため本当の早期接触を見つけることができません。

     

    マイオモニターの果たす役割

    経堂(世田谷区)の歯医者、K.i歯科で、かみ合わせの検査と診断

    上の図の左端の図は、左の歯より右の歯が高い患者さんを想定しています。下顎安静位では、顎は安定していて問題はありませんが、この状態で噛みこむと、右の図のようにあごが回転(トルク)してしまい噛み合わせ症候群の原因になります。
    そこでこの高さの不均衡を改善して下顎安静位を損なわないで噛めるようにしたいのですが、そのためには左右の歯の高さを揃えなければなりません。

    通常はそのために、薄い咬合紙(カーボン紙)を噛んでもらってその印記された痕跡を頼りに歯を削って調整します。
    しかしこの時点で、患者さんに咬合紙を咬んでもらうと、右側の図のようにあごが回転して高い方も低い方も同じように接触してしまいます。そのため両方に印がついてしまい、どちらを調整していいか分からなくなってしまいます。

    その点マイオモニターだと、下顎の挙上は一過性で、下顎安静位の状態で挙上した後ですぐに開いてしまいます。そのために本当に高いところにしか印はつきません。
    このようにして咬合調整を繰り返していくと、正確に下顎を生理的下顎安静位に近づけていくことができます。その結果として、筋肉や顎関節を安静に導くことが可能になります。

    筋肉は非常に敏感な組織です。そのためこのように注意深く、根気よく調整を繰り返すことが大切です。不快症状の寛解を目指すためには省略することができません。
    マイオモニターがなければ、このように咬み合わせ治療を行うことはできません。なくてはならない道具なのです。

     

    マイオモニターの総義歯治療への応用

    経堂(世田谷区)の歯医者、K.i歯科で、かみ合わせの検査と診断

    マイオモニターで筋肉が収縮して口が閉じたとき、顎は自分の意思とはかかわりなく口を閉じます。これを不随意的(ふずいいてき)閉口(へいこう)といいますが、この時口を閉じた位置で義歯を作るとよく噛める義歯を作ることができます。

    上の症例は下の歯が全く無くなった患者さんのため総義歯を作りなおしたときのものです。ご覧のように「下のあご」には歯がほとんど残っていません。
    患者さんが今まで使っていた術前の義歯の写真を見ていただくと分かりますが、噛み合わせが低いために咬み合うと下の義歯の前歯がほとんどかくれて見えなくなってしまいます。
    また患者さんの顔貌も、顔の下半分の長さ(下顔面(かがんめん)高(こう))が短く、「下あご」も後ろに下がっています。(下顎後退咬合)

    このような状態では下顎は生理的安静位を保っているとは考えにくく、顎が自然に安静位に戻って噛もうとすると、この義歯は後ろでしか噛めないように作られているのでうまく噛み合いません。

    そこで新しい義歯は下顎安静位で噛めるものにしようと考えました。
    そのためには下顎を安静位に導かなければなりません。

    まずマイオモニターを約1時間かけて、古い義歯を使っていたために緊張している筋肉を揉みほぐします。
    それと同時にマイオモニターで無歯顎の「あご」の型を採ります。収縮する口の中の粘膜の動きを利用して機能的な型を採得します。
    マイオモニターを使って型を採ると、義歯をいれて噛んで機能しているときと同じような機能的な型を採ることができます。
    そのため新しい義歯を装着したとき、義歯があたって痛むということが少なくてすみます。

    この患者さんの下の顎は、長年の間に歯槽骨が吸収して義歯を安定させるための、いわゆる土手が全く無くなってしまっていました。
    こういう患者さんの総義歯をつくることは難しく、通常は難症例であるということになっています。なぜなら口の中で義歯の位置が定まらずに自由に動いてしまうからです。
    マイオモニターで十分に筋のリラキゼーションが行われたところで、下顎を安静位に導き、そのときの下顎の位置を記録します。

    この操作を咬合採得といいますが、これは噛み合わせ治療のときと同じです。
    この操作のよしあしで、良く噛める義歯ができるかどうかが決まります。
    良く噛める義歯は、正確な型取り(印象といいます)と正確な咬合採得に依存しています。
    マイオモニターはこの両方の操作の成功の鍵を握っています。
    出来上がった義歯を装着した患者さんのお顔をよく見てください。
    下顔面高が長くなり、「下あご」が少し前に出てきているのがおわかりいただけると思います。
    それと同時に前方に傾いていたお顔の傾き自体も、術後垂直に真っすぐになりました。そのため全体的にかなり若返ったような印象が得られるようになったと思います。

    このように下顎安静位は姿勢にも大きく影響します。
    噛み合わせの治療では、「あごが最も楽な位置を探すこと」が、有効な治療をおこなうためには絶対に必要なことでした。

    この考え方は、症状のない患者さんの一般的な治療にも適用しなければならない基本的な考え方です。
    たとえばここで見ていただいた義歯の製作や、多数歯にかかわる修復治療、歯列矯正治療など、下顎の位置の変更にかかわる治療の場合にはこの考え方が絶対に適用されなければなりません。

     

    インプラント治療におけるマイオモニターの役割

    経堂(世田谷区)の歯医者、K.i歯科で、かみ合わせの検査と診断

    インプラント治療のように多数の歯にまたがって治療をする場合、下顎位がわからなくなってしまいます。
    このような時、勝手に適当なところで上部構造をつくってしまうと、噛み合わせ症候群のようなやっかいな症状を引き起こしてしまう危険性があります。
    マイオモニターとCMSを使って下顎安静位で最終補綴を作れば、その心配はなくなりますし、軽い症状なら消失します。

    結果的には体調が良くなったと患者さんから感謝されます。
    その逆は避けたいものです。

     

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