噛み合わせ矯正のまとめ。どのようなときに矯正治療をした方がいいのか?

      2023/08/01

噛み合わせを治すためには二つの方法があります。
歯に被せ物(セラミックスなどの人工物)をして歯の形を(咀嚼筋や顎関節に合うように)変えて噛み合わせを治す方法と、より高度になりますが、矯正治療で自分の歯を動かして「下あご」の位置を(咀嚼筋や顎関節に合うように)変えて治す方法です。
どちらの方法を選ぶのかは状況によります。ここでは矯正治療で歯を動かして「下あご」の位置を治す方法について説明してみます。
矯正治療で歯を動かして噛み合わせを治す場合には歯を削ったりして傷付けないですむという利点がありますが、その代わりに治療期間が長く(2年前後)なる傾向があります。
被せ物を利用する方法の場合には、最小限ですが歯を削らなければならないのですが、矯正治療よりも精密な「嚙み合わせ治療」が可能であり、治療期間も短くてすみます。ですから、両者を併用してその長所をとるという方法もあります。両方の治療法を長年おこなって、多くの不定愁訴を解決してきた噛み合わせ治療医の立場から、一般的な矯正治療とは考え方のまったく異なる「矯正による嚙み合わせ治療」について解説いたします。

 

矯正治療の出番は二次治療から

矯正治療は噛み合わせを治すための有効な手段のひとつですが、はじめから噛み合わせの治療を矯正だけでおこなうという訳ではありません。
矯正治療には得意なところと不得意なところがあります。
それを知って使い分けることができれば、治療の効率がよくなり、最大限の治療効果を得られることでしょう。
普通に考えると矯正治療は不揃いな歯をきれいに並べたり、狭い歯列を広げたり、歯を出したり縮めたりといったダイナミックな治療において大変有効です。ところが、「嚙み合わせ治療」では、「下あご」と「上あご」の位置関係を微妙に調整して不定愁訴をなくしていきます。そのため、「嚙み合わせ治療」に応用するためには通常の矯正治療とは異なる考え方とテクニックが必要です。よって、この場合の矯正治療は熟練した矯正治療にも強い「嚙み合わせ治療医」に依頼することが望ましいのです。まとめますと、噛み合わせの治療の目的は不定愁訴を解決することです。不定愁訴は上下の「あご」の位置関係が悪いために起こったので、不定愁訴を解決するためには上下の「あご」の位置関係を微妙に調整することで目的を達成するのです。ですから、「嚙み合わせ矯正治療」とは一般的な矯正治療とは大きく異なるのです。
この場合の矯正治療は二次治療とよばれます。では一次(初期)治療は何かといえば、上下の「あご」の間に挟むようにして使うマウスピース(オーソティック)のような装置をつかって上下の「あご」の位置関係を調節する治療です。
マウスピース(オーソティック)によって、上下の「あご」の位置関係を自由に調整することができるので、不定愁訴が起こらない「あご」の位置(下顎安静位)を見つけて短時間で不定愁訴を解消することができます。
二次治療の矯正治療は不定愁訴をおこさない「あご」の位置が見つかって不定愁訴が解消した後で始めることが多いのです。その「あご」の位置で上下の歯が噛み合うようにするために矯正治療を応用すると効果的なのです。

噛み合わせ治療のながれ

噛み合わせの治療は上下の「あご」の位置関係を修正して不定愁訴を解消するための治療と、そのあとで上下の歯が噛み合うようにするための治療に分けて考えると合理的です。(一次治療と二次治療)
一次治療は不定愁訴を解消するという噛み合わせ治療の目的を達成するためにおこないます。二次治療はその状態が維持されるように噛み合わせを変える治療です。
二次治療は一次治療で不定愁訴が解消する「あご」の位置が見つかったあとでその位置で上下の歯が噛み合うようにする治療なので、不定愁訴が解消される位置(下顎安静位)が見つからなければおこなうことはできません。
不定愁訴が解消されるかどう分からないのに複雑な噛み合わせ治療に取り組んでしまうということは避けるべきです。

二次治療にはこんな種類がある

不定愁訴を治すために「下あご」を下顎安静位に導くと臼歯部がかみ合わずに大きく開いてしまうという場合が少なくありません。
下の図の左側の図は「下あご」が楽ではない位置で噛んでいて不定愁訴が起こっている嚙み合わせですが、右の写真は「下あご」の力を抜いて「あご」を楽にしている下顎安静位での上下の歯の関係示しています。
左は上下歯列の嚙み合わせ(見える嚙み合わせ)、右は咀嚼筋と顎関節を優先した「下あご」の位置(見えない嚙み合わせ)このずれが大きいほど咀嚼筋と顎関節は無理を強いられ、不定愁訴につながります。

右のような「下あご」の位置(下顎安静位)なら不定愁訴が起こらないということは、オーソティックを使って確認することができます。右の位置を維持・持続することで不定愁訴がなくなれば噛み合わせ治療の最初の目的が達成されたことになります。
次の目標はオーソティックを外しても、この位置で上下の歯が噛み合うようにして不定愁訴が再発しないようにすることです。

噛み合わせの治療の二次治療では右のようなギャップをなくして上下の歯がしっかりと噛み合うようにすることですが、その方法には以下の図のように二つの方法があります。
右上の図はこのギャップを埋めるために上下の歯の上に被せ物(補綴物)をして歯の高さを補って噛み合うようにする方法を示しています。(補綴的咬合再構成治療)
右下の図は歯の形はそのままで、上下の歯を少しずつ動かして噛み合うようにする方法を示しています。(矯正的咬合再構成治療)

ここでは歯を少しづつ歯を動かしてしっかりとした噛み合わせをつくる「矯正的咬合再構成治療」についてもう少し詳しく説明させていただきます。

 

矯正治療で治した方がいい場合とは?

ここでは矯正的咬合再構成治療を選択する方が良い場合、あるいは他に方法がない場合について解説いたします。
それは次のような場合になります。

  1. 上下の臼歯部のギャップが大きすぎる場合
  2. 上下の歯列弓(アーチ)の拡大が必要な場合
  3. 歯並びの乱れが大きい場合(歯の叢生)
  4. 前歯が噛み合わない場合(開咬)
  5. 前歯の内側への傾斜がきつい場合
  6. 咬合平面のみだれが大きい場合

以上のそれぞれの場合について説明させていただきます。

1.上下の臼歯部のギャップが大きすぎる場合

この図のように臼歯部の歯が短くて上下の歯の間に大きなギャップがある場合には、上下の歯に被せ物(補綴物)を被せて噛み合うようにするとそれぞれの歯だけが長くなり不自然な形の歯になってしまいます。
また歯の形態的にも歯冠と歯根の比率である歯冠歯根長比率が狂うので力学的にも望ましくありません。
このような場合にはそれぞれの歯を少しづつ矯正治療で動かして噛み合うように治療したほうが無難に仕上げることができます。
また歯だけが伸びて長くなるのではなく周囲の歯槽骨も同時についてくるので自然で生理的な形態に仕上がります。

 

2.上下の歯列弓の拡大が必要な場合

この図のように歯列弓(アーチ)がせまくなってV字型をしている場合にはアーチを広げる治療が必要な場合があります。
そのような場合には矯正治療でアーチを広げてU字型にすることができます。
補綴治療ではアーチを広げることはできません。できたとしても歯根と歯冠がねじれたような形になり、歯の清掃性も悪くなる恐れがあります。
矯正治療でアーチを広げると不揃いな歯並びも同時にきれいに整えることができます。

 

 

3.歯並び乱れすぎている場合(歯の叢生)

この図のように極端に歯並びが乱れている場合には健全な上下の噛み合わせを補綴治療でつくることはできません。無理に補綴治療したとしても見た目も衛生面でも良い歯並びにすのは容易ではありません。

 

 

 

4.前歯部のオープンバイト(開咬)

このように奥歯だけが噛み合っていて前歯がかみ合わずに開いた状態になる噛み合わせを開咬(オープンバイト)といいます。
こういう咬合は矯正治療でしか治せません。
これを無理に補綴治療で治そうとすれば不自然な歯並びと外観になります。
矯正治療で治す場合、一年半から二年位の治療期間が必要です。

 

 

5.歯の傾斜がきつい場合

これは上の前歯が内側に傾斜して下の前歯に被さるように噛み合っている歯並びです。
下の前歯がよく見えない場合もあります。
別名で過蓋咬合(かがいこうごう)とも呼ばれている噛み合わせで臼歯部が低くなっている場合もあります。
このようなときも矯正治療で治すのがベストです。
無理に補綴治療で治そうとすると、歯の神経をとって不自然な形の継ぎ歯(継続歯)などになりますが、歯の寿命は著しくみじかくなります。
このような歯並びの方にはいわゆる「噛み合わせ症候群」といわれるような体調不良で苦しんでいる方が少なくありません。臼歯部が低く「下あご」が後退していることが多いからです。

 

6.咬合平面のみだれが大きい場合

これは下の歯列を横から見たところですが、歯並びの中ほどが低くへこんでいます。
そのため歯の頂点を連ねた線(咬合平面)がまっすぐになっていません。
そのために上の歯列との噛み合わせがうまくいかずに不定愁訴の原因となります。
スムーズな咀嚼運動ができませんので、きれいな面に整えなくてはなりません。
軽度な場合には補綴治療でもある程度改善することはできますが、限界があります。
この図のような場合には下の前歯が内側に傾いていますのでそれも同時に治すということになると矯正治療で治した方がよいことになります。

 

矯正治療で治した実際の例を紹介

一次治療で不定愁訴を解消したあとで実際に二次治療で矯正的な手段により咬合を再構成した症例を紹介します。

5-1.症例の紹介

患者さんは当時45歳の女性で数件の噛み合わせ専門医でスプリント治療をうけていたのです

上の写真は初診時の症状を示しています。
健康調査表を記入していただいたところ、上記の症状のほかに、目の疲れ、不眠、寝起きの悪さ、動悸、疲れやすさなどの症状を訴えておられました。
噛み合わせに関する病歴としては20年ほど前から顎関節症の治療を受けておられたとのことです。
噛み合わせ専門医のところで受けているスプリント治療自体にあまり納得がいかず、調整中に痛みが出たこともあったので転院されました。
まず診断の段階で下顎安静位を探しました。
そしてその後の位置(下顎安静位)で石膏模型を咬合器に付着してみました。それが下の写真です。「あご」の力を抜くと奥歯が噛み合わないことが分かります。

このように筋肉の力を抜いて緊張していないこの楽な状態が保たれていれば不定愁訴はおこりません。普段はすべての歯が噛み合うように噛んでいますが、そうすると途端に不快感とともに不定愁訴がはじまります。
実際に噛み締める度に不快感を感じることになるので歯を咬み合わせないで口を軽く開けていたほうが楽なのです。
そこで下顎安静位が保たれるようにするための装置(オーソティック)つくって装着してもらいました。

上の写真は下顎安静位を保つためのオーソティックを下の歯に装着しているところを示しています。
透明な樹脂で作られているので見えにくいかもしれませんが下顎安静位に下顎を保持しているところを見ていただけると思います。
オーソティックにはこの写真のように取り外しができる可撤式のものと歯の上に接着する固定式のものがあります。

オーソティック装着後の症状の変化

オーソティック装着後19日目の症状の変化
頭痛はまだあるが身体が軽くなった
以前より良く眠れるようになった
背中は良くなったが腰痛が強くなった
全体的には良くなっている
顎関節の左の方がガックンとなった
下顎を後ろに引いてしまう癖がまだある
オーソティック装着後一カ月半後の症状
頭痛はまだある 背中の痛みは気にならなくなってきた
眠りは以前よりさらに改善された

オーソティック装着後1年半後に体調がほぼ改善されたので一次治療を終了することにしました。

 

5-2.二次治療

二次治療は下顎安静位が見つかってその「下あご」の位置でオーソティックを作り不定愁訴を解消することができることが確認された後で行います。
二次治療の目的は下顎安静位で上下の歯が噛み合うようにすることです。
そのためには歯に被せ物ををして歯を高くして噛み合うようにする方法と、矯正治療で歯を動かして噛み合うようにする方法があります。
この患者さんの場合には矯正治療で上下の歯が噛み合うようにすることにしました。

矯正治療は下顎安静位を見失わないようにするためと症状の再発を防止するために下の「あご」にオーソティックを装着したままの状態で上顎から治療を開始しました。

約一年後、上下の歯列も整ってきて顎位も安定してきました。奥歯が噛み合ってきています。

さらに一年後上下の噛み合わせはさらに安定してきました。もちろん不定愁訴は再発していません。

それからさらに一年後に装置を外して矯正治療を終了しました。

下顎安静位で上下の歯が同時に噛み合うようにするという目的を達成することができました。

まとめ

噛み合わせ治療の最終段階の治療は不定愁訴が起こらない下顎安静位を探して上下の歯が噛み合うようにすることです。
そのためには矯正治療を応用することのメリットを検討すべきです。
しかしながら、一般的な矯正治療とは考え方もテクニックも大きく異なるので習熟している臨床家が少ないという難点があります。



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